コラム

看護師同乗の「民間救急」とは? 要望に応え、不測の事態に備える仕事

看護師同乗の「民間救急」とは? 要望に応え、不測の事態に備える仕事

病気や障害などによって「移動の壁」に直面する人は多く、公的支援だけでは不十分な現状があります。そうした課題の中で注目されているのが、医療的ケアを伴う移動を支える「民間救急」です。本記事では、ケアプロ株式会社 交通医療事業部長の藤 健二郎氏に、民間救急の調整や事前対応の実際を紹介いただきます。

執筆:藤 健二郎(とう けんじろう
執筆:藤 健二郎(とう けんじろう)
社会人経験を経て看護師となり、済生会福岡総合病院の救命救急センターで勤務。重症患者の看護に従事した後、大学院で看護師のストレスに関する研究を行い、急性・重症患者看護専門看護師を取得。現在は東京女子医科大学病院CCUでの臨床と並行し、ケアプロ株式会社 交通医療事業部長として、重症患者搬送や外出支援など「医療×移動」の分野で事業を展開している。
■ケアプロ株式会社「ドコケア」:https://dococare.com/transport

民間救急とは?
緊急性の低い患者の搬送を行う民間サービスのこと。多くは、消防庁の認可を受けて「患者等搬送事業(一般乗用旅客自動車運送業)」を行っている。

「民間救急=ただの移動」という誤解

「民間救急=ただの移動」という誤解

民間救急と聞くと、多くの人は
「病院から病院へ、患者を運ぶだけ」
「タクシーの延長みたいなもの」
と思うかもしれません。

しかし、実際は大きく異なります。そこにいるのは、以下のような患者さんです。

  • 認知症で環境が変わると混乱してしまう人
  • 痙攣のリスクを抱えた人
  • ALSなど、呼吸や意思伝達に制限がある人
  • 心不全で、今この瞬間も循環動態が揺れ動いている人

こうした患者さんを、医療的ケアを行いながら安全に移動させるのが民間救急です。

状態を安定させながら搬送する

たとえば、こんなケースがあります。

末期の心不全で入退院を繰り返している80代の男性。
「地元に帰りたい」という強い希望があり、東京から九州へ搬送することになりました。この方は、強心薬と利尿薬を持続投与しながら、身体の状態を維持していました。

つまり、単純に移動するだけではなく、

  • 薬剤の持続投与
  • バイタルサインのモニタリング
  • 急変リスクへの対応

を行いながらの搬送です。

こうした医療的ケアは、すべて主治医の指示のもとで事前に準備し、搬送中も治療が途切れないように設計しています。さらに今回は、患者さんから「道中で大阪の親戚に会いたい」という希望があり、バリアフリーのホテルを確保して1泊することになりました。宿泊中も医療管理が継続できるよう、必要な薬剤や機器を事前に整え、万が一に備えて近隣の医療機関とも連携をとった上で対応をしました。

予測できないことが起きる前提で動く

慣れない環境で、その患者さんは夜間にせん妄を発症しました。点滴を抜こうとする、落ち着かない、指示が通らない。こうした状況は珍しくありません。 持参していた薬剤を使用しながら対応し、なんとか朝を迎えました。しかし、ここで重要なのは「対応できたこと」ではなく、“対応できる前提で準備していること”です。

  • 万が一に備え、移動経路にある医療機関へ事前連絡
  • 薬剤は搬送終了までもつ量を準備し、事前に医師の指示書を取得
  • 宿泊施設の選定と動線確保
  • 患者と家族、医療者、交通手段の調整

これらをすべて整えたうえで、はじめて「移動」が成立します。

民間救急は「見えない調整」の積み重ねで成り立つ

実際の現場では、

  • 新幹線の座席調整
  • 車いすやストレッチャーの導線確保
  • タクシーや介護車両の手配
  • 患者の状態に応じた人員配置

など、無数の調整が同時並行で進みます。

しかもそれらは、患者の状態によって常に変化します。

つまり、民間救急とは
「医療・生活・移動を同時に成立させる仕事」なのです。

* * *

民間救急は、「ただ運ぶ仕事」ではありません。むしろ、その人の人生の続きをつなぐ仕事です。もし、移動を理由に何かを諦めている患者さんや家族がいるなら、こうした選択肢があることを、知ってもらえたら嬉しいです。

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